セブン買収提案と特別委員会 門多 丈
「どんな会社でも買収提案は来る」と日本の企業経営者の覚悟を試す事例が、セブン&アイ・ホールディングス(セブン)へのカナダのアリマンタシォン・クシュタール(ACT)の買収提案である。ACTは、米国のコンビニ事業ではセブンより営業利益率は高く、合併によるシナジーも期待される。アクティビストの攻勢で、セブンはそごう・西武の売却やヨーカ堂のスーパー事業の縮小を行ったが、「身ぎれい」になったところでACTに目をつけられた。
社外取締役で構成されるセブンの特別委員会が、ACTの提案について取締役会に答申した。これを踏まえセブンの取締役会はACTの提案に拒否を伝えた。その根拠としては、提案がセブンの「本源的価値およびそれら価値を顕在化する機会を「著しく」過小評価している」こと、米国の独占禁止法に抵触する可能性についての考慮が十分でないことを挙げた。ただ取締役会としては、セブンの株主およびその他のステークホルダーにとって最善の利益をもたらすいかなる提案については真摯に検討をする用意があると述べ、今後の交渉の可能性を残した。セブンの取締役会は、最終的に買収に同意することになる場合には、あくまでも株主にとって獲得可能な最高値を勝ち取る努力をする法的な受託者責任があり、現経営陣とは立場が違う。
セブンの海外コンビニ事業価値5.6兆円、国内のコンビニ他の事業価値は3兆円で、合計8.6兆円で試算されている。ACTの提案への「拒否」返答時点では、セブンの時価総額は5.6兆円であり、未だコングロマリット・ディスカウントの状態でもある。今後米国での独禁法の規制問題に目途がつくと、米国でのコンビニ事業の統合効果も期待できる(新聞情報によるとACTのROICは11%でセブンは3%)ので、ACTは買収価格をドラスティックに上げてくる可能性は十分ある。その際はセブンの取締役会は、現在の経営陣とACTの傘下に入るかのいずれが、セブンの企業価値の一層の向上を図れるか客観的で合理的な判断を求められることとなる。特に現経営陣の下で、「本源的価値の顕在化」が出来るのかの厳密な検証の責任がある。
※ 本記事は金融ファクシミリ新聞2024年9月26日号「複眼」欄に投稿したものです。
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